この記事では、スノーボード歴20年以上の現役インストラクターが、冬以外でもスノーボードを楽しめる本を紹介します。
今回おすすめするのは
竹内智香さんの「私、勝ちにいきます」
です。
・全213ページ
・価格:1,300円(税別)
・発行日:2014年7月
・著者:竹内智香
・発行所:(株)小学館
1.竹内智香さんの「私、勝ちにいきます」ってどんな本?
「私、勝ちにいきます」の著者はオリンピックメダリストの竹内智香さんです。
竹内さんは、2014年のソチオリンピック(スノーボードアルペン・パラレル大回転)で見事に銀メダルを獲得しました。
これは、スノーボード競技において日本人女性初となる快挙です。
この本は、12歳でスノーボードを始めた竹内さんが五輪を目指すと決意してからメダル獲得に至るまでに歩んだ道のりや、スノーボードを通して学んだことを、彼女の等身大の言葉で描いています。
スノーボードのハウツー本は数多くありますが、スノーボーダー本人が競技人生について語った本はとても少ないです。
小手先の技術だけではなく、スノーボードを通して人生そのものを楽しむヒントが満載、そんな1冊です。
2.自分が動けば人も動く
「私、勝ちにいきます」を読んで最も印象的だったのが、竹内さんの圧倒的な決断力と行動力です。
例えば次のようなものですが、本当にずば抜けた行動力です。
あれこれ考えてなかなか行動に移せない僕では一生かかっても経験できません。
- まずは「オリンピックに出る宣言」。種目は後から考える
- 日本のレベルに限界を感じ単身スイスへ。世界最強チームへの練習参加を直談判
- 住み込みベビーシッターをしながら独学でドイツ語をマスター。言葉の壁を克服
- 粘り強い交渉を経て最強のコーチと専属契約。スイスチームとの別れを決断
- とにかく速く滑ることだけ追い求め、スノーボードの板を自分で開発
- アルペン競技普及のため県庁に自ら企画書を持ち込みイベント開催を直談判
- スポンサーを探して100社以上に依頼メールを送って自己アピール
まずは行動する。
その過程で問題にぶち当たっても決してあきらめない。
周りが変化するのも求めない。
「自分で動くから、人も動く」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(176頁)
自分から動くことで周りの心も動いてくれるという、この本の副題にもなっている言葉です。
この考えが基礎にあるからこそ、周りの協力を得て超スピードで成長していけるんですね。
竹内さんのこれらのエピソードを見て僕はこう思いました。
「自分の決断が正しいかどうかなんて関係ない。自分が決断した時点で既に正しい」と。
3.世界最強チームと日本の差
2014年のソチオリンピックはリアルタイムで見ていました。
僕はフリースタイルなのでアルペンをしたことはありませんが、自分の好きなスノーボードで日本人選手が活躍する姿は単純にうれしく、スノーボードをしていることを誇りに思いました。
竹内さんが決勝で敗れた相手はかつての旧友、スイスのクンマー選手でした。
スイスの強さはいったいどこにあるのでしょうか?
「このまま日本にいては勝てない」と日本を飛び出して単身スイスに渡り、2つの国でスノーボードを学んだ竹内さんは、本の中で両者の違いについて説明しています。
きっとそれぞれの優れた部分を取り入れたからこそ、銀メダルという結果を残せたのでしょう。
中でも印象に残ったのは次の3つです。
①不安になるほど少ない練習量
スイスチームはオフの期間が長く、雪上練習があまりに少なかったそうです。
「ほんとにこれで大丈夫なのかな?」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(44頁)
「レース前に滑ってなくていいのかな?」
と不安を感じながらも、コーチの
「スイスのやり方とか考え方を知りたかったから来たんだろう?」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(45頁、46頁)
「まずは、やってみようよ」
というアドバイスを信じて実践し、技術やタイムがどんどん伸びていったそうです。
海外からすれば日本人はまじめで練習量が多すぎるということなのでしょう。
僕もこれまでバッジテストやインストラクター検定を受けてきましたが、必ずしも練習量が結果につながらないということは実感しています。
- 努力の量よりも努力の方向が大切
- 努力の量や練習量は必ずしも結果につながらない
- 頭の中のイメージと雪上トレーニングの繰り返しが大切(インプットとアウトプット)
ただがむしゃらに滑り続けるということは、
「滑っていないと不安」
というメンタルの弱さの表れなのかもしれません。
②自分の頭で考えさせるコーチング
スイスチームでは、練習で滑った後、必ずこう聞かれたそうです。
「智香はどう思う?」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(150頁)
「今の滑りはどうだったと思う?」
そして、それに答えてからコーチングが始まります。
竹内さんは、日本では自分の考えやどう思うかを聞かれることがなかったため最初は戸惑ったそうです。
指導者がすぐに答えを出さず、まずは自分の頭で考えさせるコーチング。
この方法を繰り返せば自分で考える力が身につき、自分の意見や主張をはっきり言えるようになります。
また、選手の自主性を育てることにもつながります。
人に言われたことをそのままやっているだけでは、いずれ成長は止まってしまいます。
実際に僕も、バッジテストやインストラクター検定を受ける過程で、自分がいかに考えてないかを嫌と言うほど痛感してきました。
スノーボードインストラクターとしても、このコーチング手法は自分のレッスンにぜひ取り入れたいです。
③あいまいな言葉を許さない
竹内さんがスイスチームに入った頃、スタッフや選手に言葉の端々をチェックされたそうです。
そして、あいまいな返答をすると叱られて修正されたそうです。
例えば次のようなやり取りです。
「どう、調子は?勝てると思う?」
「まあまあ、たぶんね」
「まあまじゃなく、調子いい、でしょう」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(71頁)
「たぶんじゃない、試合に勝つ、でしょ」
日本では謙虚が美徳とされ、控えめな発言のほうが好感が持たれますが、勝ち負けのはっきりするスポーツの世界では、これが良くない方向に向かうことがあります。
いつでもポジティブなスイスチームから勝ちのマインドを学んだことが「日本人は世界に通用しない」という言葉を覆す結果につながったんですね。
4.メダルより価値あるもの
竹内さんは本の中で次のように言っています。
「メダルというモノよりも、手に入れるまでの過程やたくさんの人たちが協力してくれたことに、メダル以上の価値がある」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(4頁)
オリンピック銀メダルという結果よりも、これまでのスイスや日本で学んだことや経験、素敵な出会いこそがかけがえのない宝物だということですね。
これは「自分で動くから人も動く」を実践し続けてきた竹内さんだからこそ言える言葉だと思います。
また、コーチに感謝の言葉を述べたとき、
「コーチングさせてくれてありがとう」
引用元:竹内智香著『私、勝ちにいきます』(189頁)
「自分をコーチにしてくれてありがとう」
と返されたそうです。
このようにお互いが素直に「ありがとう」を言い合える関係は素晴らしいです。
私たちも日常的に、人に教えたり教えられたりしますが、「教えることの難しさ」や「教えることで教わる」というのは良くあることです。
決して上から目線でなく、相手への感謝の気持ちを忘れてはなりません。
5.負けても相手を祝福できる
ぜひこの本を読んだ後に、当時のソチオリンピックの決勝映像を見てください。
スイスで一緒に練習したかつての仲間クンマー選手に敗れ、竹内さんは惜しくも銀メダルです。
少し遅れてゴールした竹内さんはすぐにボードを外し、真っ先にクンマー選手のもとへ駆け寄ります。
そして二人は笑顔で祝福し抱き合います。
なんともすがすがしく素晴らしい場面ですね。
(左の青コースが竹内選手です。)
6.おわりに
今回は、
竹内智香さんの「私、勝ちにいきます」
を紹介しました。
スノーボードのオフトレとして、サマーゲレンデ、スケートボード、サーフィンなどのほかに、読書を加えてみてはいかがでしょうか。
この記事がスノーボードを長く楽しみ、更なる上達をめざす人のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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